「おつかれさましたぁー、おさきぃ、しっつれいしますぅ」あーぁ、疲れた。ホテルのバーなんかどうせ暇な仕事だろなって、始めたけどぉあのカッコ窮屈だし、立ちっぱなしで結構疲れるよなぁ。でも、毎日、いい女見れるのはラッキーだよな。ま、大抵連れがいるし、カウンタ越しに軟派もできないけどさ‥…
そういやぁ、今日、西田さんが連れてきた女もいい女だったよなぁ。
マティーニが似合う大人の女っつか、メガネ越しだったけど、ちょっと赤みの差した目元に憂いがあって、色っぽいっていうか。
あのおっさんも狸だよなぁ、無口の振りなんかしちゃってさぁ。
女がトイレかなんかで席外した隙に、人に「パーラメント」なんか買わせに行かせて女の煙草が切れたところで、ポンとそのタバコ出して『不自由はさせないよ』だってうまいよなぁ。帰り際に見たら、ちゃっかりホテルのキーなんか持ってたし。
あぁー、今頃‥…
そうそう、こないだも珍しく独りでちびちびやってかと思うと、入ってきたばかりの若い女にすぐに声掛けて、いつものパターンで、タイミング見計らって、
『君、こちらの方に、シンガポール・スリングをお出しして』
面倒なのよね、あれって。派手なグラスにシェークしたジン・フィズ入れて、そこに混ざらないようにそっとチェリー・ブランディ注いで、オレンジとかレモン、ライム、レッド・チェリーとかデコレーションするんだけど、結構面倒だろ?
それ出すと始まるんだ、講釈が。このカクテルは、あのラッフルズ・ホテルで生まれたって。そんでもって、
『この華やかな外見とは裏腹な爽やかな飲みくち』
『清楚なフィズの味の奥底に隠されたチェリーブランディの情熱の色』
とか言って、要は口説いてるんだよ、これが。
あぁー、腹減った。牛丼でも食べってこっ。「すいませーん、牛丼1つ、大盛りで」
おぅ、珍しい、こんな時間に女が独りでこんな店にいるよ。そんでもって結構いい線行ってるじゃん。でもいきなりじゃなんだから、ちょっと離れて座ろうっと。
そうだ、西田のおっさんの真似して店員のおにぃちゃん使って、軟派してみよっと。
「すみませーん、ちょっと」
『なんすかぁ、玉子追加っすかぁ』
「やぁー、そうじゃないんだけどさぁ、ちょっと耳貸して.....」
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『そんなの上手く行くわけないっすよ』
「上手く行ったら、おれの次にやらしてやるからさぁ」
『そっすかぁ、じゃ、やってみまぁーす』
「渋い声でな、あくまでも、さり気なくだぞ」おっ、店員のおにぃちゃんが女の前に行ったぞ‥…
『あちらのお客さんからです、どうぞ』
目の前に出された、お新香に唖然とする、女であった。